当ウェブサイトは安全と利便性向上のためにクッキー(Cookies)を使用しています。詳細はこちら

法人向けクラウド・ネットワークサービスのINAP Japan

現場第一主義

2022年08月01日


 どこかのコンサルタントが語っていましたが、現場第一主義を語っている会社は、大体ダメなのだそうです。確かに、口先で現場第一主義を唱えるだけで、実が伴わない会社も多いのでしょう。しかし、会社が生き残っていくためには現場第一主義は必要条件なのです。理由はいたって簡単で、会社というのは外の世界と繋がりながら付加価値を生み出していくものであり、その外の世界と繋がっているのがまさしく現場だからです。現場第一主義はイコール顧客第一主義であると解されることも多いですが、現場には顧客と触れる営業現場以外にも、製造現場や調達現場、あるいは経理の現場といったものもあります。つまり、外の世界と繋がっている部署、もっと言えば、外の世界と繋がっている人そのものが現場なのです。

 では、現場第一主義とは何か。それは現場を大事にするということ。大事にするとは何か。それは現場が働きやすくすることというのももちろんありますが、より本質的には、現場、つまり実際に外と繋がっている人の判断を重視するということです。会社の経営判断というのは、外の世界と離れれば離れるほど理屈先行でトンチンカンなものとなります。だから、現場に意思決定の大きな裁量を与えると同時に、経営者層にもなるべく現場の意向が伝わりやすいように組織をフラットにする。これが、現場第一主義の本質です。

 私が社会に出た三十数年前、日本企業の強みはなんと言っても現場第一主義の徹底でした。外の世界に直接に触れる者、つまりわかりやすい言い方をすれば、担当者から課長くらいまでの実質的な判断の裁量は非常に大きく、現場で起きる様々な出来事について即断即決で行動していました。その背景には、もっと上の本当に意思決定するべき立場の人は決して意思決定はしないという、日本独特の文化が皮肉な形でプラスに働いていたという側面もあったと思いますが、本来的に日本人というのは実践的であり、偉そうな肩書を後ろ盾にした理屈よりも、現場で実際に起きていることを重視するという価値観があったのだと思います。

 しかし今では、現場第一主義は完全に廃れてしまっています。DXだの働き方改革だの意味を持たない虚無な戦略化には熱心ですが、現場で外の世界が自分たちについてどのように言っているかについては全く興味を持ちません。それでいて、外に対してはマニュアル化された自分たちのやり方を徹底的に押し付ける。それだけです。

 どうしてそのようなことになってしまったのか。私は、この30年で現場第一主義が消えていくのには3つのステージがあったと思っています。まず、第1ステップが株主代表訴訟です。これは、経営責任の履行を怠たり会社に損害をもたらした会社役員に対して、株主がその損害賠償を会社に対してなすことを求める訴訟のことです。先ごろ、前の東京電力役員に対して、数兆円の賠償を命じる判決が出されて話題になりました。これはもともとあった制度なのですが、平成5年に法律が改正されて訴訟を起こすのが極めて簡単になりました。これによって、大企業の役員が皆震え上がってしまったわけです。これまでのように、現場に対して「よきに計らえ」という言動をしていたら、自らが自己破産に陥りかねない。弁護士は、とにかくきちんとした情報に基づき合理的な判断をすることと、何事も一人で決めず、専門家の意見をよく聞きながら、複数の合議体で判断をすることが最大のリスクヘッジだと説いていました。これにより会議の数は増大し、会議のために情報のまとめと提供を行うのが現場の主な仕事となったのです。

 第2のステップは、平成15年のいわゆる個人情報保護法制定に始まるコンプライアンス狂騒です。ルールを破って不祥事が起きたらどんな目に合うかわからない。上記の株主代表訴訟の標的にもなりますし、刑罰を受けるかもしれない。更に、ネット中傷を始めとする社会的制裁は苛烈化の一途をたどります。そのような中で、業務をすべてマニュアル化し、そこから逸脱しないことが良しとされる風潮が急速に膨らみました。人間には考えさせない、判断させない、行動させない、これが一番安全だということです。これによって、現場は外に対して一切融通性を利かせることなく、このマニュアルをただやみくもに外へ適用することが求められるようになりました。

 そして3つ目のステップ。それがコロナによる業務忌避症候群です。仕事をすれば死ぬ。これは命に関わる問題ですから。このようなうたい文句が常識的とされるようになり、リモート・ワークをしているのでメールに返信できません、見積りも出せません、支払いもできません、などといったことが、当然に許されるべきこととなりました。現場はもはや、全く機能していない。それでも、M&Aと組織重層化を中心とするイノベーション・ブームにより、持ち株会社だ、戦略会社だと組織構造は複雑化、階層化が究極に進んでいるので、現場の状況は上層部には届きません。組織の建付けを整えさえすれば自ずとビジネスは良い方向に導かれるかのような、まるで仮想空間の世界のような話ばかりがもてはやされています。

 何とかならないものかと思いますが、世の流れにはなかなか逆らえないもの。まずは、コロナの終息を願うことくらいしか今はないのでしょうかね。

 

代表取締役 CEO 奥野 政樹

 

各種お問合せ、お見積もり、資料請求に関するご質問を承っております。まずはお気軽にご連絡ください。

ページトップ戻る