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公で人間性を問う日本人

2021年11月01日

あるメディアから、「あなたの人生に影響を与えたこの1冊」という取材を受けました。考えてみると難しいチョイスです。そもそも読書が自分の人格形成にどのくらいの影響を与えているのかがわかりません。人格形成には何が一番影響を与えるのか?まずはDNA?つまり人格は遺伝するのかという問題。これは、私は専門ではないのでわかりません。でも何となく、あまり遺伝しないような気がします。人格形成というのは総じて後天的なものなのではないか?

そうすると何が人格を形成するのか。まあ、まず疑いようがないのは親との関係でしょう。生まれた時から親により直接、間接に示される人生観。親がそれを子供にどれくらい押し付けたか、また、親の忙しさ、家族の多さなどによる程度の差はあるものの、人間誰しも、親によって自分の人間性の大きな部分が形成されるという事実からは逃れようがないのだと思います。

では親以外の他人、つまり教師、上司、友人といったものがどの程度自分の人格形成に影響を与えるのか?こういう人たちにものすごく影響を受けたみたいな話もよく聞くので、実際それはあるのでしょうが、私の場合はちょっと思い浮かびません。それよりは、通った学校の校風や勤めた会社の社風みたいな組織的なものの方に影響を受けている気がします。人間という意味なら、身近な人間というよりは、会ったこともないので間接的にしかわからないし本当なのかも疑わしい部分も多いけれど、歴史上の人物や著名人の生き方や考え方に影響を受けている気がします。また、それはいっそのことフィクションの人物の言動なのかもしれません。

ただいずれにしても、私の人格自体が既に形成されてからそういう人や組織と間接的に触れたに過ぎないわけであり、それも複数あるわけだから、一人、もしくは一組織の影響となると相当に小さい。そのうちのどれが無かったとしても、今の私の人格は特に変わっていないのではないかと思われます。

そういう状況ですから一冊を選ぶのは相当に難しい。山本七平には、「空気」が日本を仕切っていることを学びました。矢沢永吉には、最悪の環境下でもしっかりと自分を通して這い上がってくる強さに感銘を受けました。赤木しげるには、自分の命に興味のない異常な人間の非現実的なカッコよさに身が震えました。何なら、孔子様の「君子もとより窮す。小人窮すればここに乱る」のお言葉には、素直に学んだ気がしました。様々な歴史本には、似たような教訓はいくらでもあります。また反面教師という意味では、その時代の時々でもてはやされるコンサルタントや評論家の未来予測本の中には、ただIQの高さをひけらかすだけで人間的な深みの感じられないものも多く、こういうつまらない人間にはなりたくないものだと気づかせてくれたものも多々あります。

そうやって考えた挙句、結局藤沢秀行先生の本にしました。昭和を代表する囲碁の大棋士です。囲碁にかける執念と情熱は桁外れなのですが、同様にその破天荒ぶりがまた桁外れ。そもそも破天荒という言葉は本来「何かを成し遂げる」という意味なのだそうですが、それを「言動が常軌を逸している」という意味に変えてしまったのはこの人なのではないかと推測されるくらい、「破天荒」という言葉の響きにピッタリの人です。酒とギャンブルと女に溺れ、借金取りにいつも追われている。金もないのに別宅をいくつも構え、「タバコを買ってくる」と出て行ったきり2年も自宅に帰らない。2年ぶりに帰ってきたかと思ったら、雨が降っているから傘を持ってこいと奥さんに電話してくる。いつも泥酔しており、テレビ対局でも醜態をさらした挙句、放送禁止用語を連発。裏の賭場で警察に捕まれば、「天下の藤沢秀行がこんなチンケな博打で捕まったとあっては世の中に示しがつかない。発表では0を2つ足しとけ」と反省の色はまったくなし。それでも、囲碁に対してだけはくそ真面目。妥協した当たり前の手は嫌いで、常に革新的な新しい世界を追い求めている。棋聖戦という大タイトル戦の前になると自ら酒絶ちもする。医者が「自らの意思で酒を断てる人をアル中とは言わないんですよねえ」と言って病名を付けられず、医学の範疇の外にいる人です。

ということで、日常の破天荒ぶりと囲碁に対する真摯さの落差が人を惹きつけてやまない人ですが、正直、我々のような常人の生活には一切役に立ちません。ただ、「囲碁の全部を100としたら、いくつわかっているか?」と聞かれた時に、秀行先生は「6」と答えたという逸話があって、なるほどねえ、とは思いました。これを読んでいなければ、似たような質問に「80」とか答えてしまう恥ずかしい人間になってしまっていたかもしれません。しかし残念ながら、今のところそんな質問を受けたことがないので、学んだことを実践で生かす機会がありません。

取材でそのようなことをつらつらと語っていたら、取材者の方から意外な質問をいただきました。「御社は外国人の社員の方も多いわけですが、その社員の方たちにもこの話の面白さはわかりますか?」はっと思い、考えてみましたが、「わからないと思う」というのが私の回答です。そう言えば、米国ではプライベートなことを語るならいざ知らず、公の人の人格というものが語られることはあまりない。中国にはそもそも公という概念自体が希薄であるような気がする。そしてどこの国でも、人間を評価する時には人格よりも実績が圧倒的に語られているわけです。そこに気が付かなかったとは、我ながら国際ビジネスの「2」くらいしかわかっていないと感じます。

時代は変わり、何年か前に久々に藤沢秀行先生のことがテレビで取り上げられた時に、知らない芸人が「何、この人?なんでこんなのが許されるのよ!」と本気で怒っていました。今はもう、破天荒という人格は日本で市民権が与えられないようです。しかしそれはそのまま、公の人も人格が取り沙汰されるという日本文化がますます強化されていることの表れなのではないでしょうか。

 

代表取締役 CEO 奥野 政樹

 

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