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リーガル・マインド

2018年12月

当社に「資本論」を最近読破した人がいます。全3巻、総ページ数15,000ページを毎朝4時に起床して読んだのだそうです。その割には一向に社会主義的な立ち居振る舞いが身についておらず、会社としての利潤の追求に極めて熱心です。そういう人がこんなに夢中になるのだから、もしかしたら何か素晴らしいことが書いてあるのかもしれないと思い、私もちょっと覗いてみました。

 冒頭「資本主義的生産を行う社会では、その富は、商品の巨大な蓄積のようなものとして現われる。その最小単位は一商品ということになる。従って、我々の資本主義的生産様式の考察は、一商品の分析を以て始めねばならぬ。」うーん。これって一見論理的に聞こえるけれど、極めて思惑と思い込みに満ちた感傷的なものの言い方。何かに対する不満と反感を煽るときによく用いられるレトリック。私にはどうにもそう思われて、読むのをやめました。

資本主義の本質というのは、生産手段の私有を認め、生産物たる商品の流通、取引を自由化することで、商品の需給バランスや価格調整などの機能を、国家や特権階級による上からの規制ではなく競争原理に支えられた市場にゆだねるということのはずです。確かに、その結果としては往々にして、能力あるいは財力を持つ者と持たざる者の間の格差が広がりすぎるという悪弊が出現します。それはそれで、色々と対応をしていかなければいけない問題であることは確かなのですが、いきなりその悪弊に対する不満を煽るかのように、資本主義の本質は商品の巨大な蓄積としての富である、というようなもの言いに、私は生理的に反発を覚えます。それは、若いころにかなり法律を学んだために、いわゆるリーガル・マインドというものが否応なく私の中に宿ってしまっているせいだと思います。

では、リーガル・マインドとは何か。一般にはよく論理的思考とバランス感覚だというような言われ方をします。確かにそうなのですが、これだけだと重要な部分が抜けています。実は、人間誰でも自分なりの論理性やバランス感覚を持っており、それに従った言動をとっているわけです。つまり自分の内なる価値観や思いに機軸を置いて論理を組み立て、バランスをとりながら生きているのです。もしその論理やバランスに自信が持てなければ生きていくのに迷うことになりますが、これはこれで大切なことでしょう。

 しかし、リーガル・マインドにおける論理性やバランス感覚とは、そういう主観的なものではありません。機軸を“自らの外”に置いた客観的なものなのです。つまり法律、規則、あるいは判例と呼ばれる裁判における判決の積み重ね、そうした“自らの外”に自らの思いや価値観とは別個に厳然と存在する基軸に照らして、論理を組み立てバランスをとる。これがリーガル・マインドです。

世の中は何事も自分の望む通り、あるいは自らの価値観に従っては動いてくれません。何か課題が出てきたときに、自らの内なる基軸だけに従って論理的な対策をたて周囲とバランスをとろうとしても、それでは多くの場合、世の中のニーズから大きくかけ離れたトンチンカンな言動に繋がるばかりです。それくらいなら、いっそコインを投げて運を天に任せた方がはるかに上手くいく確率は高い。

 そうではなくて、課題に対しては“自分の外”にある基軸、例えばそれは年度の経営計画だったり、売上目標だったりするわけですが、そういうものに照らして論理的に対策をたて、バランスをとらなければいけない。こうしたリーガル・マインドに裏打ちされた言動を常に心がけていくと、やがてそれは自分の中感覚と化して、多くの場合に考えなくても瞬時に的確な判断と言動ができるようになる。従って、リーガル・マインドとは組織をリードしていく者にとっては極めて有用な資質なのです。

 このような話を当社の法務担当との民法勉強会でしていたら、冒頭の資本論の彼が壁越しにじっと聞き耳をたてていて、今度は突然民法の本を読み漁り出しました。いわく、「世の中を支配するのはマルクスだと思っていましたが、まさかリーガル・マインドとは知りませんでした。これからはリーガル・マインドに転向します!」とのこと。うーん、その支配とかいう内なる基軸自体がそもそもリーガル・マインドにそぐわないような気がするし。また、勉強熱心なので法律用語の意味は思った以上に吸収が早いけれど、やはり概念的なところが分かりにくい様子です。

ところで私にも新しい発見がありました。例えば、彼に限らず日本人は不法行為というものが理解しにくいということに改めて気づかされ、驚いています。故意、過失によって他人に損害を与えたら、その損害を賠償しなければならない。つまり他人に迷惑をかけてしまって損害が発生したら、それを弁償しなければならない。これが不法行為と損害賠償で、これまで私は当然のこととしか思ったことがありませんでした。しかし、日本人の場合は人に迷惑をかけたらお金の話よりもまず謝罪という内なる基準のせいなのか、どうもこれがわかりにくいらしい。一方、債務不履行と損害賠償、つまり約束を守らなかった場合はお金で解決というのはわかりやすい様子。なかなかに苦労をしていますが、何せ資本論を読破してしまう人なので諦めません。日々少しずつ進化している気もします。

そんな彼が最近、「No Risk」という言葉にはまっていて、業務中ことあるごとに叫んでいます。しかも、英語調にNooを「オウ」と二重母音にRiskRは巻き舌にするのがポイント。この世の中にノーリスクなどというものはないのであり、これこそリーガル・マインドの対極にある発想なのですが、社内で流行り出していて少々困っております。

 

代表取締役 CEO  奥野 政樹
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